【解説】同一労働同一賃金について

有期労働契約形態にある労働者は、正社員と同様な職務内容でありながら、非正規労働者と位置付けられ、労働条件が大きく異なるケースが相当数存在してきました。
こうした労働条件格差の問題に対して、従前、パートタイム労働法の改正などがなされましたが、適用を受ける労働者が少数であるなどの批判がありました。
そこで、労働契約法の2012年改正に際し、広く有期労働契約を規制する規程(20条)が設けられました。同条について、今年重要な最高裁判決が出ています。

「同一労働同一賃金」といいましても、賃金のみを対象としているわけではありません。基本給や各種手当等にとどまらず、教育訓練や福利厚生もカバーしています(「厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドライン案」)
これらの対象について有期契約労働者と無期契約労働者の間の「相違」がすべて禁止されるわけではありません。禁止されるのは、その「相違」が「不合理と認められるもの」であるときです(労働契約法20条)。では「不合理と認められるもの」とは何でしょうか。

有期契約労働者と無期契約労働者の間の「相違」のうち、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、「不合理と認められるもの」(労働契約法20条)は、禁止されます。これが、最高裁判決(ハマキョウレックス事件)の判断枠組みです。
例えば給食手当。最高裁は、業務の内容、責任の程度などを考慮しても、正社員にのみ支給する制度について「不合理と認められるもの」と判示しています。

正社員にのみ住宅手当を支払う制度は、無効でしょうか。最高裁は、全国規模のトラック会社の事例で、正社員は出向を含む全国規模の広域異動の可能性がある一方、契約社員は就業場所の変更が予定されていないことなどから、労働条件の相違は不合理と評価できないので、有効である旨判示しました(ハマキョウレックス事件)。
もっとも、正社員も広域異動が予定されていないなどの事情があれば、結論が変わるかもしれません。

有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が、労働契約法20条に違反した場合、すでに述べたように有期契約中のその相違部分は「無効」となります。
この場合、当該有期労働者の労働条件は無期労働者のそれと同じにはなるのでしょうか。これについて最高裁は否定しています。(ハマキョウレックス事件判決)。
とはいえ、損害賠償請求は認められる可能性があります。また、雇用主として規程の不備を放置してよいはずがなく、結局、規程の早急な整備が求められます。

嘱託社員と正社員との間で職務内容や配置の変更の範囲に相違のない事案において、最高裁はその他の事情(嘱託社員は定年退職後の再雇用であった等)を考慮して一定の労働条件の相違を許容しました(長澤運輸事件判決)。
この判決の論旨が、他の事例にも当てはまるかは議論があるところです。同一労働同一賃金は社会のうねりとなっており、論議はさらに深まっていくでしょう。現時点で参考となるものとして、厚労省「同一労働同一賃金ガイドライン」があります。

非正社員(契約社員)には退職金を支給しないことは、不合理な格差でしょうか?
今年十月、同一労働同一賃金に関する、五つの最高裁判決が出され、冒頭の設問についても判示されました。
それによると、店舗業務に従事する契約社員の職務の内容及び配置の変更の範囲が、同じ業務に従事する正社員のそれと一定の相違がある等の事情を踏まえると、退職金不支給は労働契約法20条にいう「不合理」性は否定されます。では、賞与、扶養手当などは?

アルバイト職員には賞与を支給しないことは、不合理な格差でしょうか? 今年十月に出された最高裁判決は、不合理と認められるものに当たらないと判断しました。
この判断は、①本件アルバイト職員の業務は「相当に軽易」(職務の内容)、②正職員と異なり人事異動は「例外的」(変更の範囲)、③正職員への「登用制度」がある(その他)等の事情を総合考慮した上でなされました。
本件ケースと事情が異なれば、異なった判断に至る可能性があることに十分注意する必要があります。

郵便業務を担当する正社員と契約社員との間の待遇格差について、複数の項目は「不合理」である。最高裁は、昨年十月の判決で、このような評価をしました。
「不合理」とされた項目は、年末年始勤務手当、年始期間の祝日給、扶養手当、有給の病気休暇、夏期冬期休暇にかかる格差です。最高裁は、これら手当・休暇などの性質・趣旨を見極めて結論を出しました。
これらの項目について待遇格差がある企業は、格差が「不合理」でないか再点検する必要があるでしょう。

正職員と定年後再雇用の嘱託職員との間の基本給の格差は、不合理ではない、と言えますか? 長澤運輸事件最高裁判決(平成三十年)をご存じの方の中には、不合理とは言えないと即断する人がいるかもしれません。
しかし、ちょっと待ってください。同判決の後、両者の間の基本給の格差を不合理であると判示したものも出ています(昨年十月の名古屋自動車学校事件名古屋地裁判決)。制度趣旨・目的、事情が異なれば、異なる結論に至ることがありうるということにご注意ください。

同一労働同一賃金にかかる法分野は、激流の中にあります。正社員と非・正社員間の不合理な格差は是正すべきだとする社会的要請は、強まるばかりです。この「不合理」について、最高裁判例が複数出ましたが、まだまだ足りません。そのため、具体的な制度設計としては、法の趣旨を念頭に、手探りせざるを得ません。その際、心がけるべきは、この位なら「不合理でない」という後ろ向きの発想ではなく、一歩先を見据え「合理的」な制度を目指すことだと思います。

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